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2024.10.02

那覇空港から車で30分!海沿いのまち八重瀬町のローカル旅~昭和24年創業の泡盛蔵元「神谷酒造所」を訪れる

神谷酒造所

こんにちは!日頃リュックをもって沖縄中をさんぽしているライター小鍋です。今回は、沖縄本島南部の海沿いのまち八重瀬町(やえせちょう)にある泡盛の蔵元「神谷(かみや)酒造所」を訪れました。

泡盛は、タイ米や黒麹菌を使ってつくる沖縄独自の蒸留酒で、沖縄県内には47の泡盛酒造所がありますが、神谷酒造所は八重瀬町唯一の泡盛メーカー。

八重瀬町

沖縄の原風景が残る八重瀬町は時間も空気も人もゆったりしていて、ガジュマルやハイビスカスなど自然の息吹が広がるローカルエリア。今回素敵な風景にたくさん出会いましたので、共に紹介していきます。

今も昔も変わらない泡盛づくりの工程

神谷酒造所

泡盛酒造所は沖縄在住の筆者も普段なかなか入れない場所なので、今回大変楽しみに伺いましたよ♪

神谷酒造所

今回アテンドして下さるのは、神谷酒造所代表の神谷雅樹さん(52)。若くしてこの道30年近くという大ベテランで、2022年に先代の父親から受け継ぎ3代目に就任した杜氏(酒造りの最高責任者)です。

プライベートでは地元の子供たちのバレーボール部の顧問もつとめるアグレッシブで優しい柔和な方です。

神谷酒造所

工場の中に入ると、泡盛を貯蔵している茶色い甕(かめ)と銀色の大きなタンクがずらり。現在20の甕と6本のタンクを保有していて、タンクには13キロリットル(720mlの泡盛ボトル1,800本分)の泡盛が貯蔵されているそうです。この工場から、年間約3万本の泡盛(同ボトル)が消費者の手に渡っていくそうですよ。

神谷酒造所

ずっしりとした存在感が何とも格好良い「甕」は、泡盛をつくったらまずこちらで半年以上寝かせます。

びっくりするのは、甕はただの入れ物ではなく“呼吸”していること。ガス臭や硫黄臭を除去し、泡盛が早く熟成するのに役立っているそうです。

銀色の大きなタンクではアルコールと水の結合を待つために泡盛を寝かしており、3年寝かすとまろやかでバニラの香りがする古酒(クース)のできあがりです。

神谷酒造所

今回運良く見ることができたのは「もろみ発酵」の工程。米こうじに水と泡盛酵母を混ぜ、温度25度前後で約16日間の発酵を行ってアルコール分約18%の「もろみ」をつくっています。もろみを十分に発酵させ蒸留させて出来上がるのが「泡盛」。

沖縄の泡盛づくりの工程は今も昔も基本的には変わりはなく、戦前の泡盛づくりが今でも見ることができる奇跡に筆者は感動。

初心者でも大丈夫!甘い香りからしっかりとした味わいまで揃う神谷酒造所の泡盛

神谷酒造所

ここからは全10レパートリーの商品ラインナップの中から、神谷さんがFeel OKINAWAの読者に選んでくれたおすすめの泡盛をご紹介。

神谷酒造所

初心者や女性におすすめなのは「古酒 はなはな 25度」。低温発酵もろみによる甘い味わいとキャラメルのような甘い香りが、口いっぱいに優しく広がる泡盛です。

甕による熟成貯蔵で飲みやすく仕上げており、「泡盛を飲み慣れてない人は、まずコレを飲んでみて下さい」とのこと。

神谷酒造所

神谷酒造所の代表銘柄「南光(なんこう)30度」。しっかりとした味わいで、泡盛本来の旨味や華やかな香りを最大限にいかした滑(なめ)らかな飲み口が特長です。

「一般的な泡盛です。一升瓶で購入する人が多いですね。ラフに食事と一緒に水割りで飲むのがおすすめです」。

神谷酒造が創業した1949年は、まさに戦後の混乱の真っ只中。そんな中で生まれたこちらの商品は、(沖縄本島)南部の希望の光になるよう「南光」と命名。ぜひ時代の流れを感じながら「南光」を飲んでみてください♪

神谷酒造所

1番の人気商品は、5年古酒の「熟成古酒 南光40度」。華やかな香りと果実のようなフルーティーな泡盛で、すっきりとした力強い味わいが特長だそうです。優しい甘さなので、ストレートでちびちび飲むのが好きな上級者におすすめとのこと。

泡盛ボトルでは珍しい”縦ラベル”は、15年前にデザイナーさんに作ってもらったデザイン。「工場の前に咲いていたデイゴの花をモチーフに描いてくれたんですよ~」と神谷さん。

神谷酒造所

泡盛に一切の水を加えずに作った究極の泡盛は「南光 原酒50度」。泡盛は通常、仕込みの段階で水を加えてつくりますが、こちらの原酒は水も入れず、ろ過もせず、そのままの状態で貯蔵。

泡盛本来の旨味や甘味を残したまま熟成しているため、キャラメルの香りと深い甘さが感じられるお酒だそうです。

神谷酒造所

実はこちらの「原酒」、私の主人が神谷酒造所のラインナップの中で1番好きな銘柄。最初に飲んだ時「うわ、旨い!」と感動していたのを覚えています。なんとも、飲んだ瞬間に香りが口と鼻に広がるのだそう。

神谷酒造所

ということで、今回も主人へのお土産にGet。神谷さんには「ご主人さん、お酒強いんだね。でもわざわざウチで買わなくても、南の駅やえせでも売ってるのに~」といわれましたが、この「ぜひウチで買って」とも言わない謙遜する姿勢が、神谷さんの何とも優しいところ。

いや~、きっと神谷酒造所の泡盛にもその温和な性格が滲み出ているに違いありません。

神谷酒造のはじまりと現在~同じ味を出すために工夫していること

神谷酒造所

さて、ローカル取材が大好物な筆者、神谷酒造の歴史や売れ続けるための秘訣など、アレコレ聞いてみました。

30年泡盛づくりをする神谷さんの話はとても面白く、人生のヒントになりそうな名言も出てきましたよ。

神谷酒造所

神谷酒造所が産声を上げたのは、戦後の混乱期真っ只中の昭和24年。

創業者である神谷さんのご祖父は、もともと役場の庶務課に課長として勤務。戦後はお酒(泡盛)が全然なかったため、お酒をつくる担当になったそうです。1949年に酒造の民営化が許可され官営から民営に変わったため役場を退職し、自ら民営の泡盛酒造所を立ち上げました。

八重瀬町

戦後間もない頃は八重瀬町に泡盛酒造所が100軒ぐらいあったそうですが、そこから45軒に減少し、(八重瀬町の)旧東風平村に1軒、旧具具志頭村に1軒と減り、最後は神谷酒造所だけが残りました。

「昔はムラに1軒ずつあったみたいですけどね。作る機械も今のように大きくなくて少ししかつくれないから、泡盛を売るお店は多かったみたいです。戦後はヤミで作るお店も多くて、あやまって(工業用の)メチルアルコールを使って売るお店もあったみたいです。でも祖父は『安全なお酒を造る』という使命を持ってがんばっていたと聞いています。といっても、祖父は亡くなっているので、ほとんど『東風平村史』からの情報ですけどね(笑)。図書館に行って、自社の歴史を学びました」。

我が家が自分の住むまちの歴史に残っているってすごい!

神谷酒造所

写真の中央に写るのは、神谷酒造で一番大きな泡盛ボトル「一斗瓶」(非売品/生産終了)。ずっしりとした風貌が神谷酒造所の歴史を物語っています。

神谷さんは「泡盛は古ければ古いほど美味しい。」と言います。

「もし新しいものが美味しかったら大変。どんどん作らないといけないですからね。日本酒がまさにそう。売れないと(酒造所に)返される。泡盛や焼酎は古ければ古いほど古酒になってまろやかになって美味しくなるので、在庫が残っても大丈夫。だから私たちも生き残れてきたんでしょうね(笑)」と笑っていました。

八重瀬町

そして、「私たちは周りの酒屋さんにずいぶん助けられてきました。」と神谷さんは話します。

いまから27年ほど前、神谷さんが工場を継ぐことを名乗り出た矢先に2代目を務めていた神谷さんのお父様が急に病で倒れてしまったのだそう。

当時は、泡盛に関しては素人だった神谷さん。周囲の同業者に習いに行き、全くのゼロから泡盛づくりをスタートしました。

「ただ、原料や作り方は一緒なのに父と同じ味は出せない。蒸留器や温度、常在菌などが変わるとお酒の味も変わる。僕が泡盛づくりをはじめて『前のほうが美味しい』というお客様も『前より美味しくなった』というお客様もいらっしゃいます」。

紆余曲折あれど、何度も立ち上がり神谷酒造所を守ってきた勇ましい神谷さんの姿は、まさに工場の前の一本道。

八重瀬町

お客さまのほとんどがリピーターか観光客で、県内のお客様は圧倒的に中高年のお酒好きな男性が多く、八重瀬町外と町内から半々の割合でいらっしゃるという神谷酒造。

「以前はイケイケどんどんでお酒を売っていましたが、今はマイペースに造っています。ウチの酒は(沖縄本島)中部にあまり売ってないみたいで、個人のお客様は仕事で南部に来たついでに工場に寄ってくれます。若い人はほとんど来ません。ウチの味がわかる人がきます」。

洒落たレストランやカフェより地元食堂が好き、お酒を飲むなら今どきのバーより昭和世代が好む酒場がいい。華やかな観光地よりローカル旅行が好き。

「え?私のこと?」と思ったそこのアナタ、ぜひ「神谷酒造所」に寄ってみませんか。

八重瀬町

取材の最後に、神谷さんが泡盛づくりをはじめて30年、毎度同じ味を出すために工夫していることを聞いてみました。

「同じ味を出すためには、同じことをやっていたらできない。米の水分は毎回違うし、見極めがとても難しい。蒸し方を変えています」。

人生ブレてばっかりの筆者ですが(笑)、とてつもない教訓を頂いた感じがします。ありがとうございます!

八重瀬町

八重瀬の青空の下、心をからっぽにバス旅してみませんか?もちろんレンタカー旅でも。

「バスに乗るんだったら、東風平は1時間に3本バスが来るのでオススメ。(工場がある)世名城(よなぐすく)は1時間に1本だし、歩く距離が長いですよ~」。

写真にうつるのは世名城のバス停付近。「サトウキビ畑の中を歩くのが楽しい」と、よんな~(ゆっくり)歩いて工場を訪れるお客さんもいるのだとか。

神谷酒造所

工場に来たらば、大きな泡盛のタンクや甕を見て、運が良ければ仕込み中の工程を見学して、生産者から直接泡盛を買って、口コミじゃなく生産者の手堅い話を聞いて。

ぜひローカル旅ならではの“ローカル泥”にまみれてみてください。

工場の壁の黒いすすをみることができるのも、工場見学の醍醐味。すすに見えるのは、実は泡盛づくりに欠かせない「黒麹菌」。工場じゅうに飛び散る生きた黒麹菌、ぜひこの目で見てみてくださいね♪

八重瀬町

神谷酒造所がある世名城には、全国3位クラスの巨木「世名城のガジュマル」(町指定天然記念物/おきなわの名木百選)があり、世名城橋付近にはハイビスカスや川が広がります。工場見学の前後にゆっくり周辺をめぐってみると面白いですよ。

八重瀬町は、ふと横を見ると瓦屋根の住宅や石獅子など昔ながらの息吹が感じられるローカルエリア。このゆっくりとした空気と時間を味わいながら、バス旅をするのも良し。レンタカーであちこち自由に回ってローカル旅を満喫するのも良し。

海沿いのまち八重瀬町のローカル感を満喫してくださいね。

[基本情報]神谷酒造所
住所:沖縄県島尻郡八重瀬町世名城510-3
電話番号:098-998-2108
その他:ネットショップ有
URL:https://www.kamiya-shuzo.com/

konabeharuka
この記事を書いた人小鍋 悠
沖縄出身、沖縄在住。ことば×音楽のライフワーカー。某テレビ会社とラジオ局勤務を経て、現在ライター&司会者。小さい頃はとにかく図書館が大好きで、大学ではびっしり沖縄民話の調査に当たり「取材」の原点を味わったことから、ライターへ。得意な執筆分野は「沖縄あるある」。趣味はJazzとピアノ。 このライターの記事一覧

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